人生には時に運任せな瞬間があると、いつも感じていた。
試験や就職、そして部屋探しもそうだ。
料理大学を卒業した後、私は迷わずこの大都市へ引っ越してきた。
ここはペースが速く、チャンスも多い。
競争も激しいが、私は気にしない。
少なくとも、息が詰まるような田舎の故郷にいるよりは、ずっと自由で多様だ。
その日、私は荷物を引きずって新しいアパートの前に着いた。
一緒に鍵の受け渡しをした大家は、中年男性で話しやすそうに見えた。
「ここがリビング..隣が寝室と書斎、この部屋は採光が良いでしょう?前の入居者も気に入ってましたよ。」
「ええ、良さそうですね。」私は頷いた。
私は住環境を見ながら、部屋の左右の隣人の様子も窺っていた。
実は大都市に来た目的は、仕事以外に良い相手を見つけることだった。
大都市は開放的で、同類の人も多いから、田舎の故郷よりずっと良い。
だから正直、隣にどんな人が住んでいるか、少し期待を抱いていた。
しかも...隣にイケメンが住んでいたら…と思うと、ちょっとワクワクした。
たとえ何も発展しなくても、毎日見るだけで疲れた心が癒されるかもしれない。
「そういえば、隣は誰か住んでますか?」私はわざとらしく聞いた。
大家は少し笑った。
「ああ、住んでる住んでる。あっちも私の物件で、若い男の子が借りてるよ。」
私は目を輝かせた。
「そうなんですか、どんな人ですか?」
「エンジニアだって。IT企業で働いてるらしい。」
私は心の中で3秒ほど静かになった。
エンジニア。
……しまった。
頭に浮かぶのは、あのイメージのエンジニアたち。
眼鏡、チェックシャツ、身だしなみはまあまあ、口数少ない……などのステレオタイプ。
少し無口かも。
私は黙って頷いた。
「ああ……そうなんですね。」少しがっかりした。
私が大家と鍵のやり取りを終え、ポケットに鍵をしまおうとした時——
「あ、大家さん!」
突然、道端から誰かが大家に声をかけた。
私は声のする方を見た。
そして——全身が止まった。
一人の男が、私たちの前まで走ってきて止まった。
上半身は裸だった。
汗が胸筋を伝って流れ落ちる。
肩幅は広く、ラインがはっきりしていて、腹筋は派手ではないが、ほどよく引き締まっている。
肌は陽光を受けて健康的に輝いていた。
息が少し荒く、胸が微かに上下している。
その瞬間、私の頭に残ったのはたった一つの考え——
……隣にこの人が住んでいたらいいのに。
「今走ってきたの?」大家が笑いながら言った。
その男は立ち止まり、頭をかいた。
「うん、今日は少し遅くまで仕事だった。」
声は低くて。
とても良い声。
「そうだ、新しく隣人が来たよ。」大家が私を指差した。
「彼が今日引っ越してきたんだ。」
私は固まった。
彼は私を見た。
視線が重なった瞬間——
心臓が一拍飛んだ。
「こんにちは。」彼は少し笑った。
自然に。
距離感なく。
私は少し慌てた。
「こ、こんにちは……」
「彼がさっき言ってたエンジニアだよ。」大家が何気なく付け加えた。
私の頭がフリーズした。
待って。
この人?
エンジニア?
私は彼の、明らかに鍛えている体躯を見た。
そしてさっき自分が想像していた姿を思い出した。
……私は間違っていた。
ありがとう、完璧に間違っていてよかった。
その瞬間から、私は頭の中で私たち二人の間にどんな火花が散るのか、妄想し続けていた。
たとえ付き合えなくても、せめて一度は彼と愛し合いたかった。
だから引っ越した後、私は「自然に」機会を作り始めた。
私の得意分野ははっきりしている。
料理だ。
最初、私は作りたてのサンドイッチを手に持って。
ドアベルを押した。
心臓が少し速く鳴っていた。
ドアが開いた時、彼は下半身にタオルだけを巻いていた。
髪も少し濡れていた。
おそらくお風呂上がりだろう。
「お邪魔してすみません……今朝作りすぎてしまって、一人では食べきれなくて。」
私は無邪気に笑った。
彼は少し驚いた様子だった。
「あ……ありがとう。」
受け取る時、私たちの指が少し触れ合った。
ほんの一瞬。
しかし私ははっきりと覚えている。
あの日から。
私はとても「よく料理をする」ようになった。
時には煮込み肉。
時にはデザート。
時にはただの家庭料理。
理由はいつも同じ——
「作りすぎちゃった。」
彼は最初は少し遠慮がちだった。
やがて少しずつ話すようになった。
そして——
私を少し中に入れて座るよう誘うようになった。
「本当に上手いね。」ある日彼は言った。
「これが私の得意分野なので、各国の料理も得意なんです。」私は笑って答えた。
「なるほど、味が違うわけだ。」
彼の視線には少し真剣なものがあった。
むしろ私が少し居心地悪くなった。
なぜなら、私がこれまでしてきたことは、純粋な気持ちから来ているわけではなく、彼を「食べたい」という気持ちで接してきたからだ。
「普段は一人で食べるの?」彼は聞いた。
「うん。」
私は肩をすくめた。「慣れてるから。」
彼は頷いた。
何も言わなかった。
日々はゆっくりと過ぎていった。
私たちは親しくなった。
しかし、それほど深い仲ではない。
ちょうどいい具合に——
曖昧な境界線に留まっていた。
あの日まで。
私はすでに眠っていた。部屋はとても静かだった。
突然——
ピンポン。
ピンポン。
ピンポン。
一度ではない。
ずっと鳴らされ続けていた。
そして——ドアノブが回される音もした。
私は飛び起き、心臓が速く鳴っていた。
「誰……」
私はドアまで行き、のぞき穴から外を見た。
そして固まった。
隣のエンジニアのイケメンだった。
彼は頭をドアに預け、額を押しつけ、息も少し荒い。
どうやら……酔っているようだった。
私は少し迷った。
結局、ドアを開けることにした。
「え、どうしたの?……」